千の風になって
千の風になって
「Do not stand at my grave and weep.
I am not there, I do not sleep.
I am in a thousand winds that blow.…」
「わたしの墓の前で泣かないで下さい。
わたしはそこにいないのだから
わたしは千の風になって渡ってゆく・…」
各国で行われる戦争記念日や慰霊祭では、
必ずといってよいほどこの詩が朗読され、また歌われ、
多くの遺族の方々の心を慰めています。
アメリカでは、2001年9月11日に起こった同時多発テロの一年後の追悼式で、
父親を亡くした11歳の少女がこの詩を朗読したことで、話題となりました。
アメリカを発祥とするこの詩について記してみましょう。
メアリー・フライとマーガレット
この詩の起源に関しては、いくつかの説がありますが、
もっとも有力なのが、メアリー・フライという
アメリカのメリーランド州ボルティモアの主婦が書いたとされる説です。
それは1932年のことです。
メアリーの家にマーガレットという
ドイツ系のユダヤ人の少女が同居していました。
ヒトラーによる反ユダヤ主義政策が進む中、マーガレットは、
ドイツにいる母のことをとても心配していました。
母は老齢の上、体の具合も悪く国外に出ることができなかったのです。
メアリーたちも大使館を通して出来る限りのことをしたのですが、
その甲斐もなく、
やがてマーガレットのお母さんは亡くなったということが判明したのです。
しかしユダヤ人迫害が激しくなる中、
マーガレットはドイツに帰国することも出来ず、
毎日泣き暮らしていました。
ある日、メアリーとマーガレットは一緒に買物に行き、
帰ってきて家のキッチンテーブルの上に、買ってきたものを並べ、
仕分けをしていた時、突然メアリーの買ったものを見て、
マーガレットが泣き出したのです。
「それ、わたしの母が好きだったの。」
メアリーが「マーガレット、お願いだから泣かないで。」
と言うと、彼女は言いました。
「何が一番悲しいかって、わたしは母の墓標の前に立って、
さよならを告げる事も出来ないのよ。」
そう言うとマーガレットは
涙に目をぬらしたまま二階の自室に引きこもりました。
その時、メアリーは心に込み上げてくるマーガレットとその母への思いを、
目の前にあった茶色の買い物袋に一気に書き上げました。
それが、この「千の風になって」の詩です。
(もちろん題名はありませんでした。)
やがて落ち着きを取り戻し、階下に降りてきたマーガレットにこの詩を渡すと、
彼女は詩を一読するやいなや、メアリーを抱きしめて言いました。
「わたし、この詩を一生大切にするわ!」
そしてもう泣くことはありませんでした。
マーガレットの母の死からしばらくして、
彼女の家族の友達が、詩をハガキに印刷して人々に送りました。
それが人伝いで広まっていったのです。